骨盤底領域疾患(直腸肛門疾患・骨盤臓器脱)の徹底解説
 
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直腸瘤の手術:どの術式がいいの?


直腸瘤の術式は、大きく経膣手術と経肛門手術にわけられる。

それぞれの術式には長所と短所があるので、本人の状態に応じて最適な術式を使い分ける必要がある。
どちらか一方だけの術式ですべての直腸瘤に対応できるわけではない。

「年齢」 「主訴(本人がいちばん苦痛に思っていること)」 「合併している疾患」 といった要素を考慮しつつ、本人の希望を尊重して術式を決定することになる。



長所 短所

 経腟手術 (TVM手術を含む)

「膣側からの脱出」が主訴の直腸瘤を治すのであれば、こちらの方が明らかに成績が良い。


「膣側からの脱出」が主訴の場合には、明らかに経肛門手術より成績が優れている。
特に膣から大きく脱出する直腸瘤は、この経膣手術でなければ治せない。

子宮脱や小腸瘤といった他の骨盤臓器脱疾患を合併している場合にも対応できる。


性行為や出産に不具合が生じる可能性がある。
そのためこの術式は、原則として若い人に行われることはない。

「排便障害」が主な訴えの場合には、この経膣手術では十分な症状の改善が得られないことがある。


 経肛門手術

若い人や、「排便障害」が主な訴えの人にはこの方法が行われる。


性行為や出産に不具合が生じる可能性がきわめて低いため、閉経前の若い人にはこの方法を優先して行っている。

直腸重積や直腸粘膜脱などを伴っており、排便障害が主な訴えになっている場合には、この経肛門手術の方が成績が良い。


経膣手術と比べると、直腸瘤の「膣側からの脱出」を改善する力は弱い。

特に膣から大きく脱出する直腸瘤は、この方法では治せない。

子宮脱や小腸瘤といった他の骨盤臓器脱疾患を合併している場合にも対応できない。



 ●われわれの施設における、おおまかな術式の判断基準

 -経膣手術-
ある程度の年齢の方で、直腸瘤の「膣側からの脱出」が主な訴えとなっている場合には、経膣手術を選択している。
子宮脱や小腸瘤などの他の骨盤臓器脱疾患を合併している場合には、TVM手術などの手法を用いて直腸瘤と同時に治療することができる。

 -経肛門手術-
若い人に経膣手術を行うと性行為や出産に不具合が起こる可能性があるため、閉経前くらいの若い人では原則として経肛門手術を選択している。
「排便障害」が主な訴えで、直腸重積や直腸粘膜脱などを伴っている人の場合にも、経肛門手術を選択することが多い。




(解説)

直腸瘤の手術は、膣側から行うもの(経膣手術)と、肛門側から行うもの(経肛門手術)に分けられます。
(もうひとつ「経会陰手術」という膣と肛門の間の皮膚から行う術式もあるのですが、全国的にほとんど行われていないようなので割愛します)

一般的に経膣手術は婦人科医が手がけており、経肛門手術は大腸肛門外科医が手がけることが多くなります。
それぞれの科で慣れ親しんだ、得意なやり方で治療を行っているわけです。

ただしいずれの術式にも長所と短所があるため、どちらか一方だけ行っていればいいというわけではありません。
それぞれの患者さんの状況に適した術式を選択することが重要なのです。

そのため直腸瘤の手術を多数手がけている病院では、大腸肛門外科医が両方の術式を習得しているか、または大腸肛門科と婦人科が協力して治療を行っていることが普通です。
(私が所属している病院でも多数の直腸瘤の手術を行っており、大腸肛門外科医が両方の術式を行っています)


それでは、経腟手術と経肛門手術は、どちらがすぐれた術式なのでしょうか?

いろいろな分野における治療法の成績を比較検討した「コクランレビュー」というものがありまして、2013年の最近の報告によると、直腸瘤の「膣側からの脱出」を治すには経膣手術の方が優れているという結果が出ています(参考文献1)

さらに子宮脱や小腸瘤といった他の骨盤臓器脱疾患を合併している場合にも、経膣手術であればTVM手術などを用いて直腸瘤と同時に治療することができます。


ただしこの経膣手術にもいくつかの短所があるので、その場合には経肛門手術が選択されます。

まず経膣手術には、術後に性交障害(痛みや違和感など)が起こる可能性があるという欠点があります。

経膣手術では、膣の粘膜を切開縫合し、さらに筋肉や筋膜などを使った縫合補強を行う必要があります。
この場合、治ったあとで膣粘膜に凸凹やしこりが残る可能性があるわけです。

だから性行為を行っている若い人に経膣手術を行ってしまうと、性行為時の痛みや違和感などの苦痛が生じて(本人もパートナーも)、生活に支障をきたす可能性があるのです。

この「直腸瘤の経膣手術」で性交障害が起こる頻度はそれほど高いわけではなく、症状が起こらない人の方が多いと思われます。
それでも一定の確率で起こる可能性がある以上、若い人には経膣手術を行うべきではないと考えています。

また、若い人で将来出産の可能性がある場合でも、膣を切ったり縫ったりするようなことはなるべく避けた方がよいということは言うまでもありません。

以上の理由から、私は(よほど重症の人を除けば)40代くらいまでの比較的若い人に経膣手術を積極的にすすめることはありません。
このような場合には、原則として経肛門手術をおすすめしています。

いっぽうある程度高齢の方で性行為を行っていないと思われる人であれば、経膣手術をお勧めしても支障はないと思うのですが、現実には性行為をしてるかどうかなんて女性には聞きづらいものです。
(女性スタッフに確認してもらったほうがいいのかもしれません)


また、主訴(本人がいちばん苦痛に思っていること)の種類や直腸肛門疾患の合併の有無も、術式選択の決定基準として重要です。

直腸瘤で悩んでいる方の訴えは、おおきく「膣側からの脱出」と「排便障害」に分けられます。
「膣側からの脱出」を治すのであれば、経膣手術の方が成績がすぐれているので、若い人以外では経膣手術を選択すべきです。

いっぽう「排便障害」が主な訴えの場合には、治療戦略が異なってくることがあります。

直腸瘤で悩んでいる方の場合、直腸粘膜脱直腸重積などの直腸肛門疾患を合併する頻度が高く、この場合には「膣の脱出」より「排便障害」が主な訴えになっていることがあります。

このような場合には、経膣手術だけでは十分な症状の改善が得られないことがあります。
経膣的に直腸瘤を治療しても、合併している直腸肛門疾患を治療しなければ、排便障害の訴えは改善しないことになるわけです。
だからこのようなケースであれば、経肛門手術を行う必要があります。

もちろん直腸瘤に対して経膣手術を行い、直腸粘膜脱などの直腸肛門疾患は別に対処するという作戦もあるのですが、これでは膣と直腸肛門の両方に手術の傷ができてしまうことになるわけです。
(技術的には問題なくできるのですが、できれば最小限の傷で治してあげたいですよね)


参考文献
(1) Cochrane Database Syst Rev. 2013 Apr 30;(4)
Surgical management of pelvic organ prolapse in women.



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