骨盤底領域疾患(直腸肛門疾患・骨盤臓器脱)の徹底解説

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骨盤臓器脱の手術成績




辻仲病院で行われている骨盤臓器脱手術のうち、圧倒的に多く行われているのはTVM手術です。
(この他にも、従来法手術直腸瘤経肛門的手術直腸脱の経肛門的手術や経腹的手術など、いろいろな骨盤臓器脱手術があります)

ここでは参考に、この骨盤臓器脱手術の代表格である「TVM手術」の成績を示してみます。

当院で直近3年間(2014年1月〜2016年12月)に行われたTVM手術は約490例で、このうち私(赤木)が術者を担当したのは364例でした。
この私が担当したTVM手術・直近364例の成績について検討してみます。



●手術を受けた患者さんの術後経過: 99%超の方が予定通り退院できています。

入院中には、「クリニカルパス」という表に準じて、術後の患者さんの管理を行います。
クリニカルパスとは、骨盤臓器脱の手術前後に用いられるスケジュールのことです。

スケジュール通りに順調に経過すれば「クリニカルパス達成」、合併症が起こってスケジュール通りに経過しなければ、「クリニカルパス脱落」となります。

私が手術を行った直近364例について調べてみたところ、直近3年でパス脱落となった人は3人でした(脱落率0.8%)。

これは私の手術を受けた患者さんのうち99%超の方が、大きなトラブルを起こさず予定通りに退院したことを意味します。



●再発: 3%くらいです。昔の術式と比べると飛躍的に改善されています。

現時点での再発率は約3%です。

昔の術式(子宮を取って膣壁を縫い縮める手術)の再発率は30〜40%という報告が多いので、これに比べると圧倒的に成績は良くなっていると言えます。

再発率ゼロの骨盤臓器脱手術は存在しないので、「100%一発で治します」と約束することはできません。(これは全国どこの施設でも同じです)

ただし再発した場合には次の手を打つことで、最終的にはほぼ全員の方を治すことができています。



●出血: 多量の出血が起こる可能性は、非常に低いと言えます。

多量の出血が起こって輸血を要したケースが1例だけありました。
二度と同じ轍を踏まぬよう猛省し、術式にいくつかの改良を加えた結果、それ以降は多量出血をきたした症例はありません。

私がこれまでに手掛けた、600例を超えるTVM手術経験のうち、輸血を要する大量出血が起こったのはこの1例だけです。



●骨盤臓器損傷: まず起こらないと言えます。

臓器損傷とは、骨盤臓器(膀胱・尿管・直腸)を傷つけることを言います。

リング(ペッサリー)を長い間留置していた人や、子宮摘出後の人では、癒着のため手術難度が通常より高くなっています。

このような場合には、手術中に骨盤臓器(膀胱・尿管・直腸)を傷つけないように、慎重に操作を進める必要があります。

私がこれまでに手術した600例を超えるTVM手術症例のうち、初期の3例に臓器損傷が起こりました(0.4%)
万一傷ついたら即座に修復を行うことで、問題なく経過しています。

その後術式の改良を重ねていった結果、直近3年では臓器損傷は起こっていません。
最近では、骨盤臓器損傷を起こす可能性は非常に低くなっていると言えます。



●痛み: 敏感さによって個人差はありますが、心配する必要はないと言えます。

手術は「載石位(さいせきい)」という姿勢で行います。これはお産の時の姿勢と同じです。
この手術体位の影響で、術後しばらくのあいだ腰痛が生じることがありますが、これは数日で消失します。

傷の痛みもほとんど感じないか、軽い痛み程度ですむ人が大半です。
ただし一部には痛みに敏感な人もいらっしゃるので、このような場合には痛み止めの内服薬でコントロールしていきます。

退院する頃には痛みは消失していると考えてよいでしょう。



●メッシュの露出: 最近は非常に少なくなっています。メッシュ露出が起こった場合には、日帰りか一泊で対処できます。

メッシュは体にとって異物であるため、ときに体からメッシュを押し出す反応が起こり、膣壁の傷のところからメッシュの一部がちょっぴり露出してくる人がいます。

直近3年・364例のうち、メッシュの露出を認めた人は2例でした(0.5%)。
長期的に見ると、このメッシュ露出をきたす人の数はもう少し多くなると思われますが、それでも2〜3%程度に落ち着くと思われます。

メッシュが露出した場合には、露出したメッシュのところだけハサミで小さく切り取れば治るので、対処は難しくありません。(日帰りか一泊でできます)



●メッシュの感染: まず起こらないと言えます。

メッシュはポリプロピレンという素材を用いており、これは「そけいヘルニア(脱腸)」の手術で長年使われてきている、もっとも信頼のおける素材です。

メッシュの感染とは、メッシュに細菌が繁殖して化膿することを言います。

私がこれまで手術した症例で、メッシュ感染を起こしたケースはゼロなので、メッシュ感染を起こす可能性はまず無いと言えます。



●尿が出にくくなる: まず起こらないと言えます。

手術で膀胱に大きな刺激を与えたり、メッシュのつっぱりが強すぎるようだと、術後に尿が出づらくなることがあります。

この場合、術後しばらくのあいだ、一日5〜6回ほど「おしっこの管」を尿道から挿入して尿を出してあげる必要があります。これを間歇的導尿(かんけつてきどうにょう)といいます。

直近3年のデータを調べてみたところ、私が手術した人でこの間歇的導尿が必要となった人はいませんでした。



●尿がもれやすくなる: これは手術の合併症ではありません。約3%の方で追加処置が必要となります。

腹圧性尿失禁とは、腹圧がかかったときに(咳・くしゃみ・歩く・階段歩行・運動・重いものを持つ…)尿が漏れる状態のことをいいます。

骨盤臓器脱の手術を受けたあとで、この腹圧性尿失禁が悪化してくる方がいます。
「骨盤臓器脱は治ったけれど、今度は尿が漏れるようになった」と感じる方が一定の割合でいるということです。

ではなぜ、こんな現象が起こるのでしょうか?

骨盤臓器脱を有する人の多くは、膀胱が下がっています。
膀胱が下がることで尿道が曲がって圧迫されているため、骨盤臓器脱を有する人は尿が漏れにくい状態になっています(下図左)

手術で膀胱の位置を正常に戻すと、この尿道の圧迫が解除されます(下図中央)

もともと尿道の締まりがゆるい人では、尿道の圧迫が解除されることで、尿漏れが起こってくることがあるのです(下図右)

ですからこれは手術の合併症ではなく、「もともと持っていた尿漏れしやすい体質が、手術をきっかけとして明らかになってきた」と言うべきものです。

術後に腹圧性尿失禁が起こった場合には、まず保存的治療(骨盤底筋体操や薬)で対処します。

多くの人はこの保存的治療だけで改善してくるのですが、これで改善しない場合には、後日あらためて尿失禁に対する追加手術が必要となることがあります(尿道スリング手術:代表的なものにTOT手術などがあります)

私が骨盤臓器脱の手術を行った患者さんのうち、尿道スリング手術が必要となった人の割合は約3%でした。






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