骨盤底領域疾患(直腸肛門疾患・骨盤臓器脱)の徹底解説
 
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大腸内視鏡検査:300、1000、5000の壁 (上級・至高レベル)



上級:中級と上級は症例数では線引きできない(と思っている)

上級に到達するには10000例が必要という説が多いが、他にも諸説ある。
10000例やっている人は8000例以上を上級と言い、15000例やっている人は10000例以上を上級と言う。
自分がクリアした経験数よりある程度低いところを上級のラインとしてしまうのも人情であろう。

自分の中では、「優しい軸保持」を体得しているか否かで中級と上級を区別している。経験数や挿入時間は評価基準には含めていない。

だから自分の価値基準では、大腸内視鏡経験15000例の医師や平均3分で挿入する医師であっても、中級以下に分類される医師がいることになる。


この上級レベルに達している人は、全国の大腸内視鏡検査を行う医師の中に1%いるかいないかという程度だと思う。
私の所属している病院は全国屈指の大腸内視鏡検査数を誇るが、そこの医師やOBの中でもここまで到達している人は数えるほどしかいない。

「優しい軸保持」を体得している上級者の挿入を見ると、scope全体を駆使して右手と左手が高度に協調された挿入法となり、一見太極拳のようにやわらかく曲線的な印象を受ける。

ただし中級の人が見てもなかなかその人が上級であるとは認識できない(少なくとも自分はそうだったと記憶している)


このレベルに到達すると、挿入がきわめて安定してくる。

患者さんに与える苦痛が、中級の医師よりもさらに小さくなってくる。

ただしわれわれのやり方(無送気軸保持短縮法)では、上級者の挿入に要する平均時間は、中級の頃とさして変わらないという感じがしている。
上級者だからといって、別に挿入時間が速くなるわけでもない。

上級になっても挿入時間が速くなるわけではないとしたら、なにが違ってくるのか?

スピードを重視する流派であれば、プッシュしてループを作った方が速くクリアできる場面では、積極的にプッシュすることになる。

でも無送気軸保持短縮法の場合には、そこを何とかプッシュせず、腸をつっぱらせないように丁寧にscopeを進めていくことになる。
だからどうしても一定の時間を要することになる。

自分の知る無送気軸保持短縮法の上級者は、例外なく極端に早い挿入をしなくなるかわりに、はまることもなくなってきわめて安定してくる。
挿入時間が4〜5分あたりを中心とした正規分布に近くなり、その分散が小さくなってくる。

これはループ挿入法が、腕が上がるにつれて挿入の平均時間が短くなってくるのと対照的である。
ループ挿入法をやっている施設では、「スピードが速いほうが偉い」という価値観が存在する(らしい)。
ループ挿入法の上級者になると、平均3分未満で挿入を完了してしまうのを私は知っている。

挿入時間は評価の対象とはならず、「楽な検査を受けてもらうこと」を重視するわれわれのやりかた(無送気軸保持短縮法)とは、価値観からして異なっているわけである。

だから私がループ挿入法でタイムを競っているような病院に就職したら、おそらく私の技術は「速くない」と思われて評価は高くないであろう。

逆にループ挿入法でスピード重視でやってきた医師がわれわれの病院に就職し、軽い鎮静剤のもとで大腸内視鏡検査を行ったとしたら、「あの先生は痛がらせる」と思われて、こちらも評価は低くなる可能性がある。

良い悪いの問題というより、大腸内視鏡を挿入する最に重きをおく点が施設によって異なっているわけである。


私の価値観において「上級レベル」と認めている数名の医師は、内視鏡一筋で長年やってきた人(内科出身者)か、大腸肛門科一筋で長年やってきた人(外科出身者)のいずれかに分けられる。
自分の知る限り、一般内科や一般外科の片手間に大腸内視鏡をやってこのレベルに到達している人はいない。

このレベルに到達しようと思ったら、意思の力や能力だけではどうにもならず、運も大事になってくるような気がする。
相当症例数の多い専門病院に長年所属できるという幸運に恵まれ、そこで大腸内視鏡検査を毎年1000件やったとしても10年はかかるわけである。

こういう専門病院は全国にもそれほど多くない。
そこで10年以上淘汰されずに頑張り続けられたということは、それだけの意志と能力と運があるということだろう。



至高レベル

このレベルの医師が本当に存在するかどうか明らかでない。
仮にいたとしても、全国に数えるほどしかいないはず。

このレベルの医師が大腸内視鏡を行っているのを自分が見ても、この人が至高レベルにあることを気づかないかもしれない。

かつて何度も見学に通わせていただき、私が個人的に日本一の無痛大腸内視鏡検査の達人だと思っているS先生は、この領域に達しておられるのかもしれない。

自分が引退を考える遠い将来に、このレベルについて語れる日がくることを願いつつ・・・



大腸内視鏡検査:300、1000、5000の壁 (見習い・入門レベル)大腸内視鏡検査:300、1000、5000の壁 (初級・中級レベル)大腸内視鏡検査:300、1000、5000の壁 (上級・至高レベル)


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